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大阪高等裁判所 昭和57年(ネ)1041号 判決 1983年1月28日

控訴人、附帯被控訴人 クラブ祇園こと 植松栄

右訴訟代理人弁護士 出宮靖二郎

被控訴人、附帯控訴人 山下正信

右訴訟代理人弁護士 黑田登喜彦

同 平松光二

主文

原判決を取り消す。

被控訴人、附帯控訴人の請求及び附帯控訴をいずれも棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人、附帯控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人、附帯被控訴人(以下控訴人という。)訴訟代理人は、主文第一項、第二項前段、第三項と同旨の判決を求め、被控訴人、附帯控訴人(以下被控訴人という。)訴訟代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求め、附帯控訴として、原判決に対し、「この判決は仮に執行することができる。」との宣言を附加する裁判を求めた。

二  当事者双方の主張及び証拠関係は、次に付加、訂正するほか原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

(原判決の訂正)

原判決三枚目裏一一行目の「、(3)」を削除し、同行の「各事実は認める。」の次に「同2(二)(3)の事実のうち控訴人が松本に一〇三万四〇〇〇円を貸し付けたことは認めるが、その余の事実を否認する。控訴人は松本に対し、小切手を振出し交付して、右金員を貸し付けたものである。」を加える。

(控訴人の主張)

一  公序良俗違反について

1  クラブホステスの顧客未収売掛金回収責任負担の契約ないし顧客未払金保証契約が公序良俗に違反すると判断される主な理由は、保証額が無限度であり、客(主債務者)が無制約的であること、更には保証額がホステスの手の届かないところで客の注文のままに増えていく性質のものであるという点にあろう。ホステスが売上増加に努力すればする程、掛売客全員の未収代金総額がホステスの保証債務として累積していき、しかも客の注文を断ったり、店の提供する飲食物をホステスにおいて自由に制御できないため、ホステスの手の届かないところで債務が増大することとなり、際限なく発生していく飲食代金の取立てをホステスに負担させることは、ホステスに時として極めて過酷な結果となる。このような債務について、ホステスに保証人としての責任を負わせることは誠に酷であり、仮にそのような契約がなされていても、ホステスを契約上の義務から解放する必要が生じる。

しかし本件貸付けは、あくまで一定額の金銭の消費貸借に過ぎず、それ自体何ら公序良俗に反するものではない。

即ち、本件貸金は、金額も確定的であって、営業実績の拡大に応じて債務も増大していくという懸念は毛頭ない。松本はその借入金の弁済について、その可能性を十分計算できる状態にある。結果的に前店の未収金回収を自分の方でやることになったとしても、その回収の難易や、回収率等について、予め松本において考慮することができる。したがって弱者の立場にあるホステスの保護という見地に立っても、そこには自から差異があって然るべきである。

本件貸付契約の締結は、前記保証契約の締結そのものとは根本的に性質を異にするのである。

ただ、その動機が松本の前店に対する未収売掛金の返済にあてることにあり、かつ、それが当事者間において表示されていたことにより、貸付契約そのものをも反社会性のあるものとして無効ならしめるかどうかの問題である。そして本件貸付けが公序良俗に反し無効かどうかは、表示された動機がそれ自体強い反社会性を有し、よって契約自体をも著しく社会正義に反するものと考えるべきか否かによるべきである。

2  ホステスは、仮に他店へ変るにしても、自己の信用を維持し、かつ歩合の清算を受けるためにも、未収金の整理を望むことが多い(しかもそれが不良債権でない限り、ホステスにとって何ら不利益ではない。)。しかし売掛金の回収は、一定期間を置いて請求する慣行上、すぐに済ませるわけにはいかず、それには相当の日数を要することとなる。そして売掛金の回収は後にしてでも、早く店を変りたいというような場合には、他から借金をしてでも、前店の清算をし(歩合給も貰う)、後でゆっくり集金に回ることを望むのではないか。しかしこの場合でも、高利の金を借りるわけにはいかず困ることがある。このようなホステスが現実には多々見受けられるのであって、言わばこのようなホステスを救済する意図もあって、無利息且つ分割払いで貸出しが行われているのである。

本件貸付けは、控訴人が松本に代って前店へ立替払いをしたことによるものではない。松本は本件貸付けを受けたうえ、自己の自由な意思に基づいて、前店に支払いをしたものである。

また松本は、前店シロスを辞め、他の職につく心算なら、何も控訴人から金を借り受けて同店に支払う必要はなかったであろう。同店から未収金の支払いを請求されれば、裁判で争えばよいのである。しかしホステスの収入が他の職よりはるかに良いので、松本は、前店シロスとの間を清算して店を変ろうとしたのである。ただその金を、自己において調達することができなかったので、松本は、控訴人から借り入れたものである。松本が前店との争いを避けて控訴人から本件貸付けを受けながら、今更その無効をいうのは正義に反する。松本の前店シロスにおける未収金が、その時点において不良債権であったわけではないし、もし仮にそうであったとしても、同店が松本にその支払いを請求したかどうかもわからない。それを自己の利益も含めて先に清算しようとしただけのことで、そこには前店シロスや控訴人の優越的な地位や力は全く働いていない。殊に控訴人としては、松本のために好意的に行った貸付けであり、それ自体何ら批難されるべきものではない。

3  本件貸付けによって前店に対する松本の未収売掛金支払債務が清算され、これに代って、控訴人に対する借受金返還債務が新たに生じても、松本が前店の客に対して未収売掛金を取り立てなければならないことに変りがないこと、更に松本が控訴人の店を辞める時には即時借受金返還の弁済期限が到来し、その返済ができるまで控訴人の店への勤務を続けなければならないことを理由に、前店の未収金返還に充てることを動機とする金銭の貸付契約は、ホステスの立場に何らの変化も及ぼさず、未収金支払いに関する契約と内容が同様であって、公序良俗に反するとの考え方がある。

しかし松本が、前店の未収金取立義務を負うか否かは、あくまでも前店との契約の効力の問題であり、その有効無効はともかく、松本としては、前店との関係を一切断ち切りたいとの自己の意思に基づいて、前店への支払いをしたものであり、その用途に使うために、本件借入れがなされたに過ぎない。

ホステスから、店の方へ通常よく金銭の前借りの申入れがなされ、店でもこれに応じて、多額の金銭が無利息で貸し出されるが、これはすべてそのホステスがその店に勤務していることによって生じる相互の信頼関係からなされるものであって、長期にわたる欠勤や退店ということになれば、当然その信頼関係は終了し、即時返還義務が生じるとの約定となっている。一般に従業員に金銭を貸す場合には、在職を条件として貸し、辞める時には返済して貰うよう取り決めることが多いが、その金銭を返さないと退職できないわけではない。ただ退職によって履行期がくると、返済能力のない場合に困るので、退職を延ばして期限の到来を防止しようとすることは考えられる。しかしこのことは、確定日を履行期と定めている場合よりも、むしろ債務者にとって有利に働くことの方が多いのではないかと考えられる。いずれにしても、債務者が退職することによって返済期が到来するだけのことで、借金を返済しないと退職できないわけではないし、返済能力のない場合に、それをどのように処理するかは、履行期が確定日であろうと否とにかかわらず、同じように考えなければならない問題である。

4  以上のとおり、ホステスが自己の顧客の飲食代金を店に立替えて支払い、後日回収を計ることは、何ら社会正義にもとる行為ではなく、ホステスが右立替支払いをした場合についての利害得失の計算と自己の意思による選択に基づく右支払資金の貸借契約自体をも著しく社会正義に反するものと考えることはできない。控訴人は、本件貸付けにより松本の前店の債権者としての地位を承継したに等しいということはできず、本件貸付契約と前店における未収売掛金回収責任負担の契約とは、根本的にその性質を異にする。

二  控訴人の利得について

本件貸付けの契約と保証契約は同時になされており、契約関係は一体をなしているところ、もし右貸付けが無効であれば、控訴人は松本に金銭を交付する義務がなく、したがって控訴人から松本に金銭が移動する原因がなかったことになる。借受人側として、被控訴人は取得しえない金銭を返したに過ぎず、被控訴人の行為によって、本来の原状に戻っただけのことである。したがって控訴人に利得があったとはいえない。

三  不法原因給付について

本件貸付けが無効であるとするならば、被控訴人の弁済は不法原因給付であって、その返還を請求することはできない。すなわち、被控訴人が保証人にならなければ本件貸金はなされていない。その意味では、被控訴人が保証人になったことは、本件貸金の重要な要素である。また被控訴人は、本件貸付けの保証人となることが条件で本件貸付けがなされたこと及び本件貸付金の用途を知悉していた。本件貸金が公序良俗に反するならば、被控訴人の保証行為も、そのような反道徳的・反社会的契約の成立を助長し、これに深く関与したものとして、反社会的行為であり、公序良俗に反する契約であるといわざるを得ない。被控訴人は不法原因の重要な一端を担うものであり、したがって右保証契約の履行としてなした本件支払金の返還を請求することはできない。

(被控訴人の主張)

一  公序良俗違反について

1  ホステスの未収売掛金支払義務は公序良俗に反し無効であるが、このホステスを引き継いだ店の立替金貸付けはそうでないとされれば、経営者は、未収売掛金をかかえたホステスを次々に他店に身売りさせて行くであろうし、ホステスはいつまでも前店、前々店あるいは更に前の店の未収売掛金の回収に苦しめられ続けることとなる。当初の経営者としては、直接ホステスに未収売掛金の請求をせずに、次の店から貸付金の形で立替えてもらえば、有効かつ容易にこれを回収できるし、次の店の経営者も、有効にこれを請求できる。経営者側としては、ホステスを転々と他店に移せば、結局無効呼ばわりされるものはなくなるのである。

ホステスの顧客未収売掛金保証契約のみならず、この未収売掛金を実質上立替払いする次の店の貸付けをも公序良俗に反し無効とされる理は、ひとつには、右立替え又は貸付けにより、前店の雇主の優越的地位により、ホステスに過酷な負担を強いる契約及び契約上の地位を、次店の経営者が引き継ぐからであり、ひとつには、ホステスが店を変わる時には、新店が前店に対し、ホステスの未収売掛金を立替えて支払うことが業界の通例であるため、右立替え又は貸付けをも無効としない時には、右当初の保証契約を無効とした趣旨が、潜脱ないし実質上無意味化されてしまうからである。

そして新しい店が、前店に未収売掛金を立替払いしこれを貸金とするのは、自らもホステスに、未収売掛金支払義務を課すことと表裏一体の関係にあることは明らかである。

2  控訴人は、控訴人が松本の前店シロスに対し、その未収売掛金を松本に代って立替払いしたものではないと主張する。しかし松本が前店をやめて控訴人の店にくるためには、松本は前店に対して、未収売掛金を支払わなければならず、控訴人の松本への本件貸付けは、右未収売掛金の支払いの目的でなされたものであり、事実そのとおりに清算がなされたことは明らかである。これは控訴人が直接前店に未収売掛金を立替払いし、これを松本との間で消費貸借の目的とする準消費貸借契約をなした場合と、実質的に同じことである。したがって、控訴人の本件貸付けを、実質的には松本の前店への未収売掛金の立替払いと称することは、何ら不合理でない。

次の店が、前店の未収売掛金清算のために、ホステスに貸し付けることは、雇主の優越的地位を利用して、本来経営者が負担すべき掛売によって生じる危険を回避して、自らが顧客から取り立てるべき飲食代金を自己の被傭者であるホステスに支払わせて容易にこれを回収し、ホステスに過酷な負担を強制する未収売掛金支払いに関する契約及びこの契約に基づく債権者の地位を、実質上前店から承継することを意味している。

3  控訴人は、ホステスが早く前店の清算をして他の店に移ろうと望んでも、高利の金を借りるわけにもいかず困ることがあるから、このような者を救済する意図もあって、無利息かつ分割払いの貸出しが行われていると主張する。しかしこれは、前提である未収売掛金支払義務の無効性を不問にしたうえでの理屈であり、不当な主張である。

また、控訴人は松本が前店の未収売掛金の取立義務を負うか否かは、あくまで前店との契約の効力の問題であり、その有効無効はともかく、松本としては、前店との関係を一切断ち切りたいとの自己の意思に基づいて、前店への支払いをしたものであり、その用途に使うために、控訴人より金銭の借入れがなされたに過ぎないとも主張するが、これは一面では、松本の意思を強調することにより、松本の前店への未収売掛金の支払いが不当に強いられたものであるという問題の本質をまぎれさそうとするものであり、他面では控訴人より松本への貸付けと未収売掛金支払債務との不可分性を隠そうとするものである。

またホステスの自分の意思だというが、法律的には無効であっても、約束した以上これを履行しようと努める者も存在することはむしろ当然なことであり、このことによって、黒を白とするすりかえが許されるはずはない。

さらに控訴人は、松本が前店との未収売掛金支払義務が過酷であると考えたのなら、前店との間でこれを争うべきであって、それをあえて避けて控訴人より金銭を借り入れて、右支払いをした以上、もはや未収売掛金支払義務の不法性を主張できないといった趣旨の主張もするが、失当である。すなわち、例えば賭博で敗けたために負担した債務の弁済を目的とする資金の貸付けが公序良俗に反し無効であることは争いのないところであるが、右貸付けが借主の自由な意思に基づいており、かつ借主が賭博の債権者との間で、債務の不法性についてあえて争わなかったとしても、結論に差異がないのと同じ理である。

二  不法原因給付について

1  被控訴人の本件弁済が、不法原因給付であるとの控訴人の主張は、否認する。被控訴人の連帯保証債務は、その附従性により無効となるのであって、保証契約自体は、何ら公序良俗に反するものではない。

2  仮にそうでないとしても、受益者は前店シロス及びその地位を実質上承継した次店の控訴人であり、かつ本件においては、不法の原因は受益者である控訴人についてのみ存在するから、民法七〇八条但書により、被控訴人の本訴請求は許されるものである。

(新たな証拠関係)《省略》

理由

一  当裁判所も、当審における当事者双方の新たな主張・立証を加えてさらに審究するも、連帯保証契約不成立を理由とする不当利得返還請求についての被控訴人の主張は、理由がないものと判断するのであって、その理由は、次に付加、訂正するほか、原判決理由第一、二項説示と同一であるから、これを引用する。

1  原判決七枚目表三行目の「の前の勤務先クラブ」から六行目の「右同額の貸付金としたこと」までを、「に対し、前店未収売掛金一〇三万四〇〇〇円の支払資金を貸し付けることとして、同額の小切手一通を振出し交付したこと」と改める。

2  同七枚目表六行目の「このこと」を「右貸付け」と改める。

二  そこで被控訴人の公序良俗違反の主張について判断する。

被控訴人は、ホステスが勤務先のクラブに対し、クラブの客に対する未収売掛金取立て回収責任を負担する契約が公序良俗に反し無効であるから、ホステスが従前勤務していた前店の右未収売掛金取立て回収責任の履行のための借入れも、公序良俗に反し無効であり、したがってその連帯保証債務も、附従性により無効となる旨主張する。すなわち松本の本件借入れは、いわゆる動機の違法により無効となり、ひいては被控訴人の本件連帯保証債務も、附従性により無効となるというにある。

ところで、松本が従前勤務していたクラブ・シロスと松本との間で、松本が指名客又は持口座として割り当てられた同クラブの客に対する未収売掛金を取り立て回収する責任を負い、退店と同時にその立替払いをする旨の契約が締結されていたことは、当事者間に争いがない。

《証拠省略》によると、一般にホステスが他店のクラブに勤務先を変えようとする場合には、前店の未収売掛金を自ら支払ってこれを清算し、その後新たな店に勤務先を変えること、クラブ経営者としては、右のような清算支払いをしていないホステスを新たに雇傭することは、同業者としてはばかられること、ところで右支払資金を有しないホステスは、しばしば新たな店からこれを借り受けて右清算支払いをなし、後日前店の客から未収売掛金の取り立て回収をなし、これにより、あるいは自己の給料から右借入金の弁済をすること、控訴人は松本が前店シロスから控訴人の店に勤務を変えるにあたり、前記のとおり、前店未収売掛金支払いのためになされることを了解のうえ、本件貸付けをしたものであるが、その弁済の方法・利息は特に定めず、ただ松本が退店する場合は、即時残金を返済すべきものと定めたことが認められ、右認定を左右すべき証拠はない。

そして一般にホステスのクラブに対する顧客未収売掛金支払義務を内容とする契約は、その売掛金の多寡が主として客の意思にかかるものであって、ホステスの手の届かぬところで増大し、その金額も不確定かつ無制限であり、雇主(経営者)が優越的地位を利用し、経営者が本来負担すべき未収売掛金回収不能の危険を回避し、経済的弱者である被傭者のホステスにその負担を強い、おおむね経営者が一方的に利益を得るもので不当というべく、したがって特段の事情のない限り、右契約は公序良俗に反し無効と解せられる(ホステスがクラブの未収売掛金取立て回収責任を負担する契約が、公序良俗に反し無効であることは、当事者間に争いがない)。

しかし、ホステスが右未収売掛金取立て回収責任を履行するため、他からその支払資金を借り入れた場合に、その借入れが未収売掛金取立て回収責任を負担する契約と同様に、ただちに公序良俗に反し無効となるものとはいい難い。すなわち、そのような借入れの効力は、いわゆる動機の違法により問題となるものであるが、動機の違法により、そのような借入れが違法となるためには、単に動機が表示されかつそれが抽象的に違法というのみでは足りず、当該具体的動機の公序良俗違反の程度等、当該借入れにかかわる諸般の事情を総合的に考量して判断すべきものである。

ところで前記認定のとおり、控訴人は松本に対し、松本が前店の未収売掛金支払いのため借り入れることを了解して本件貸付けをなしたものであり、勿論その動機は、当事者間に表示されていたものであり、かつホステスの未収売掛金取立て回収責任負担契約は、前記のとおり一般に公序良俗に反し無効とされるものであるが、ホステスが自己の意思により未収売掛金の取立て回収を行うこと、あるいは自己の資金をもってその支払いをすること自体は、違法といいうるものではなく、かつホステスが前店を退職するにあたっては、未収売掛金の金額が当然確定するものであるから、ホステスが当該金額の多寡、転職の利益、未収金回収の可能性等を考慮し、自主的にその支払いをなそうとすることをもって、ただちに公序良俗違反ということはできない。そしてその支払いにあてるため資金をクラブ関係者以外の第三者から借り受ける場合は勿論、他店のクラブ経営者からこれを借り受ける場合にあっても、それが事実上同業者たる前店の利益につらなることになることを考慮しても、前店の経営者がホステスの未収金の回収をはかるため、店を変ることを余儀なくさせ、新しい店の経営者も右事情を承知のうえ立替支払いの資金を貸付けた等の特別の事情又はホステスの無思慮、困窮につけ込んだような不当な事情がない限り、右借入れをもってなお公序良俗に違反するものとはいい難い。

前記認定事実によると、松本はなお自由な意思により本件借入れをなし、前店未収売掛金の支払いをなしたものというべく、控訴人が前記特別の事情又は松本の無思慮・困窮につけ込んだような不当な事情を認めるべき証拠はない。

被控訴人は、控訴人が前店シロスの松本に対する債権者の地位を実質的に承継したものとみることができる旨主張するが、右のとおり、松本は自己の自由な意思に基づいて本件借入れをなし、自ら前店への支払いをなしたものであって、控訴人が立替払いをしたものでもなく、また松本の転店について前店シロスと控訴人との間で特別折衝がなされたような事情も認められない以上、控訴人が前店シロスの松本に対する債権者の地位を実質的に承継したものとみることはできない。

そうすると、右貸付けにかかる本件連帯保証契約も、なお有効というべく、これを無効とすることを前提とする被控訴人の本訴予備的主張は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

三  以上によると、被控訴人の本訴請求は理由がなく、これを棄却すべきである。

よって、これと結論を異にする原判決は失当であって、本件控訴は理由があるから、原判決を取り消し、被控訴人の請求及び附帯控訴をいずれも棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林定人 裁判官 惣脇春雄 小林茂雄)

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